現代の小麦が人間の血糖値を急上昇させることは、この記事「小麦のGI値と血糖上昇は、砂糖よりすごい」でくわしく解説した。
さらにまずいのは、この半世紀ほどのあいだに、われわれが口にする炭水化物の多くが精製されるようになったことだ。おかげで、小麦ほどではないにしろ、ほとんどの炭水化物が食後、血糖値を急激にあげる性質をもつことになってしまった。
精製された食品は通常、不純物(食物繊維やビタミン、ミネラルなど)がそぎ落とされるため、体内への吸収が早い。
われわれが日常的に口にしている加工食品やインスタント食品のほとんどにも、小麦や精製炭水化物が使われている。
こうして、現代人の体内では、1日に何度も血糖が跳ねあがり、これを抑えこむべくインスリンの大量放出がひっきりなしにおこなわれているのが実情だ。
血糖値の急上昇とインスリンの大量追加分泌が人体にもたらす影響は甚大である。次のとおり、百害あって一利なし。このまま看過することはできないレベルなンである。
糖質は病気の製造工場
1.血管の内壁を破壊する
血糖値が上昇し、一定ライン(180)を超えると、どろどろの血液が血管を傷つけ、血管の内壁が急激に壊れはじめる。動脈硬化や心筋梗塞の原因だ。
くわえて細い血管や毛細血管の血流はとどこおり、血行がわるくなる。
この緊急事態をまぬかれるため、体内の補修部隊(自然治癒力)が血管内壁の修復に駆りだされる。すると、本来必要な部分の修復作業があとまわしになり、体内のあちこちでいろいろなトラブルが頻発しはじめるのだ。
2.すい臓が疲れ果て、インスリン分泌をやめる
インスリンを四六時中、分泌させられていると、どんなにピンピンしていたすい臓だって、やがては疲れきって過労死に追いこまれる。糖尿病のお出ましだ。
糖尿病なんてたいした病気じゃなかろう、などという人がいるが、おおまちがいだ。
糖尿病の先には、腎不全、肝硬変、脳卒中、心筋梗塞、足の切断、失明などの合併症が待ち受ける。これら合併症によって、患者は真綿で首を絞められるごとく、じわりじわりと寿命を刈りとられていくのである。糖尿病が原因で死亡する日本人は年間500万人前後にものぼる。現在の治療方法で、よくなることは少ない。
なお、たいていの場合は、すい臓がぶっ壊れるまえに「インスリン抵抗性」なるものが生じる。インスリン大量追加分泌を繰り返していると、身体が慣れてしまい、反応がにぶくなるのだ。この状態を「耐糖能異常」や「ブドウ糖代謝障害」ともいう。
こっちも大問題だ。なにしろ、インスリンをいくら放出しても血糖が消えないのである。すると、身体はすい臓にさらなる追加分泌を命じ、ヘトヘトのすい臓をなお鞭打って、今際(いまわ)のときを早めるのである。この過程でさまざまなホルモンも分泌される。その役割をになう副腎や甲状腺にも負担がかかることになる。
3.糖化が進み、老化を促進する
血液内のあまったブドウ糖は、体内のたんぱく質と結合する(糖化反応という)。これが、あらゆる生活習慣病のトリガーになっている点にも目を向けたい。
たとえば、股関節や膝、手指などの関節が回復不能の損傷を受けるため、関節炎の原因になることがわかっている。
さらに注意が必要なのは、糖化が進むことで、老化の主原因の「AGE(糖化最終生成物あるいは終末糖化産物)」が生成される点である。
AGEの弊害は、ざっと数えあげるだけでもこんなにある。
AGEからくる老化の初期症状 | その延長線上にある疾病 |
---|---|
皮膚のたるみ、しわ | 皮膚の老化 |
眼球のにごり | 白内障 |
ふしくれだった手 | 関節炎 |
腎機能低下 | 腎臓病 |
精力減退 | 勃起不全(ED) |
動脈硬化 | 心筋梗塞、脳出血、脳梗塞、腎硬化 |
骨密度の低下 | 骨粗しょう症 |
脳細胞の機能低下 | 認知症 |
組織の劣化 | がん |
AGEに関する記事が2014年秋、全国紙でとりあげられたことは記憶に新しい。
ポテトチップスなどに大量に含まれるアクリルアミド(AGEの一種)には強い発がん性がある、という内容だった。
アクリルアミドは、工業用として接着剤や凝固剤、紙の仕上げ剤、化粧品などに利用されている化学物質。過去、アクリルアミドをあつかう工場で、作業員がアクリルアミドを大量に吸引したり、接触したりして、中枢神経系に障害を起こした例は枚挙にいとまがない。
だから、WHOや国際ガン研究機関は発がん性を指摘しているし、わが国の農水省も健康被害の可能性を示唆している。
ところで、工業用の化学物質がどうして食品に含まれているかについてだが、これはアクリルアミドがAGEの一種であり、糖がたんぱく質と反応してできるものだからだ。早い話、炭水化物を多量に含む食材を120℃以上で加熱調理すると生まれてくるのだ。
だから、じゃがいもや小麦粉、とうもろこしなどを油で揚げてつくったスナック菓子などからは高濃度で検出されるのだ。
食品 | アクリルアミド濃度(μg/kg) |
---|---|
ポテトチップス | 467~3544 |
フレンチフライ | 512~784 |
ビスケット、クラッカー | 53~302 |
シリアル | 113~122 |
コーンスナック類 | 117~535 |
食パン、ロールパン | 9以下~30以下 |
ほうじ茶 | 519~567 |
(国立医薬品食品衛生研究所の調査結果から抜粋)
なお、糖質制限中の軽食に便利なナッツ類にもAGEが含まれている、とする向きがあるが、それは揚げたナッツの話。生ナッツなら問題はない。
糖質制限生活をはじめてからというもの、わたしはいつも懐に生ナッツを忍ばせておき、小腹がすいたらぽりぽりやっている。するとどうだろう。他人がうまそうに食べている炭水化物への憧憬や欲求を消すことができるのだ。せんべいやクッキー、クラッカー、スナック菓子が食べられないストレスも即解消するのである。
しかも、アーモンドやくるみなどの生ナッツは、良質のオイルが主成分。ビタミンとミネラルもたっぷり含んでいる。
すこぶる健康にいい。
4.内臓脂肪が溜まり、メタボになる
インスリンの別名は「脂肪蓄積ホルモン」。血中のブドウ糖から脂肪を合成し、体細胞へとりこむのである。くわしくは、別記事「インスリン」をご覧あれ。
ともかくは、悪名高きメタボ腹(内臓脂肪)をつくっているのは、このインスリンなのだ。食後の血糖値が高ければ高いほど、インスリンの分泌量が増え、内臓脂肪も増えていく。
メタボ腹は、二の腕や太もも、オケツにつく脂肪とちがって、異性にモテなくなるだけではすまない。内臓脂肪そのものが炎症を起こしているので、マクロファージ(炎症や免疫に深く関与する白血球)を大量に含んでいる。そうして24時間、大量の炎症シグナル(炎症性物質)を全身へ放出しつづけるのだ。この結果、身体のいたるところで炎症が発生する。
内臓脂肪が、皮膚の炎症を悪化させたり、心臓病やガンをはじめとする、あまたの生活習慣病の温床となっているのはよく知られた事実である。
さらに、この炎症シグナルは、体細胞のインスリンへの反応をにぶらせていく。こうなると悪循環。糖尿病への階段をまっしぐらに駆けおりていくことになる。
メタボリックシンドロームとは? グルテンフリーや糖質制限でメタボ解消!5.食欲が増進し、メタボが加速する
血糖値を急上昇させる炭水化物は、食欲促進剤の役割を果たす。
メカニズムをごく簡単に解説する。
1)食後高血糖による満足感と快感で、ハイになる
血糖値の急上昇によって、人間は満腹中枢が刺激されて満足感を感じる。同時に、セロトニンやエンドルフィンを分泌。多幸感や快感を感じるのだ。簡単にいうと、ハイになる。
セロトニンは、多幸感を感じるホルモン。エンドルフィンは、快感を感じる脳内モルヒネだ。
2)それもつかの間、インスリン大放出で、血糖値は乱降下
血糖値が急激に低下すると(人によっては、上昇前よりさがる)、腹のなかにはまだ消化されていない食べ物がたっぷり残っているにもかかわらず、空腹感を覚える。
空腹感、というのは、じつは消化器内に食物があるかどうかでなく、血糖値が低下すると感じるものなのである。
3)食べ物に手が伸びる
というサイクルを延々、繰り返すことになるのである。しかも、食べると、エンドルフィンが快楽を運んでくるのだから、もはや歯止めなどきくはずもない。
テレビでよく、米国の「超」のつくおデブ……おおっと、失礼……肥満女性が1日中クイズ番組を見ながら、スナック菓子やインスタント食品を食べている姿を見かけるが、ああいうのは、この①~③のサイクルに完璧にハマっているのだ。
あらゆる炭水化物のなかでも、とくに小麦は強い中毒性を持つことで知られている。
糖質は万病の元
ここまで書いてきたように、血糖にインパクトを与える食品を日々むさぼっていると、内臓脂肪や老化物質が体内に沈着してくる。こいつらは、船底に貝殻がくっつくように、本人が気づかぬうちにどんどんと増殖していき、やがては船が傾いてしまうくらいに堆積するのだ。
最後に、さまざまな食品が食後血糖へ与える影響の大きさを一覧にした図を掲げておこう。
賢明なる読者諸兄なら、もうおわかりだろう。
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