インスリン

メタボの男

インスリンは、すい臓のランゲルハンス島という部分にあるベータ細胞でつくられるホルモンだ。主として、体内の組織がブドウ糖をとりこんでエネルギーとして利用するのを助けたり、ブドウ糖を脂肪に変換してたくわえる働きをになっている。

すい臓の働き

血糖値(血中のブドウ糖量)をコントロールし、さげることができるのは、人間の体内では唯一、このインスリンだけである。

分泌の仕方には次の2種類がある。

  1. 昼夜分かたず少量のインスリンを分泌しつづける「インスリン基礎分泌」
  2. 糖質摂取後の血糖値り急上昇を避けるための一時的な分泌「インスリン追加分泌」

1.インスリン基礎代謝

基礎分泌ができなくなると、人間の細胞はまともにエネルギー代謝をおこなえなくなるため、生命活動の維持も困難となる。

つまり、インスリンは人間が生きていくうえで不可欠な物質。すい臓の存在をわれわれがふだん意識することはほとんどないが、インスリン分泌をつかさどる臓器という点において、肝臓や腎臓とならんで重要な役割を背負う臓器だ。

2.インスリン追加分泌

追加分泌されたインスリンは、血中にあふれたブドウ糖を細胞内にとりこみ、エネルギーとして利用できるようにしている。ただし、たいていは余るので、残りのブドウ糖は体脂肪に変換してたくわえている_脚注Column。これもインスリンの働きだ。

このインスリン追加分泌には、次の2つがある。

  1. 【第1相反応】食後に血糖値が上昇しはじめるとすぐ分泌開始。事前に貯蓄していたインスリンを数分間勢いよく分泌することで、血糖値の急上昇を防ぐ。
  2. 【第2相反応】少ない量のインスリンを食事中から食後にかけて分泌しつづけることで、血糖値をコントロールする。

インスリン分泌能が落ちると糖尿病になる

血糖値測定場面ついでながら、糖尿病というのは、すい臓が弱り、インスリンの分泌能が低下することで、血糖値が恒常的に高くなる病気のことだ。

炭水化物(糖質)の過剰摂取は、血糖値の急上昇とインスリンの過剰分泌をまねく。

こうした食生活を日常的に繰り返していると、インスリン抵抗性――インスリンに対する反応がにぶくなる状態が生じる。インスリン抵抗性は、さらなるインスリンの過剰分泌をすい臓に強いるため、最後はすい臓が白旗を揚げて、インスリンの分泌がとどこおる。

これが、日本の糖尿人の95%以上を占める2型糖尿病お決まりのコースである。

なお、インスリンはランゲルハンス島にある「ベータ細胞」というところから分泌される。糖尿病を発症した人はその時点で、「ベータ細胞」の10~20%が死んでいるケースが多いという。その後、インスリン抵抗性が亢進することで、ベータ細胞の数も減りつづけ、50%を切ると、糖尿病の快復はもはや期待できない。

CHECK POINT
インスリン療法の問題点
  • 1923年、カナダの医師バンディングがインスリンを発見し、ノーベル賞受賞。
  • 1型糖尿病を患っている子どもたちの命を救った。
  • が、当時は1型と2型の区別がついておらず、2型へもインスリン投与を始めた。
  • 1950年代に入って、2型患者は病気が進行するまで、インスリン不足にならないとわかったが、治療方法に変化はなかった。
  • 1980年代になると、「インスリン抵抗性」の存在がつきとめられた。
  • ただし、治療方法はその後も変わらず、カロリー制限とインスリン療法が、現代の糖尿病治療のメインストリームとなっている。
  • しかし、この治療法でよくなる患者はほとんどいないのが実情である。
  • 最近になってようやく、核心をつく治療シナリオを描く医師が出てきた。
  • そのシナリオとは、(1)糖尿病を発症、進行させる主要因は、内臓脂肪の蓄積とインスリン抵抗性の亢進、(2)これを促進させるのは、炭水化物の過剰摂取による食後高血糖&インスリン大量追加分泌、というもので、炭水化物の摂取を制限することで糖尿病は治る、と彼らは強調している。
_脚注Column/人体のメインエネルギーは、じつは体脂肪なのだ

われわれの肉体は日々、体脂肪を分解し、これをガソリン代わりに内燃機関を動かしている。じつは、脂肪こそが人体の主な動力源なのだ。そンなら、肝臓や筋肉にためこんだグリコーゲン(ブドウ糖のかたまり)はなにかというと、あくまで急場しのぎのエネルギー。犬に吠えられて猛ダッシュするとき、階段を駆けあがるとき、重たい荷物を持ちあげるとき――こんな瞬間、われわれはグリコーゲンの世話になる。

葉山
葉山

グリコーゲンというのは、肝臓や筋肉がブドウ糖から合成した物質だ。いつでもブドウ糖に分解することができる。

ちなみに、肝臓や脳などもグリコーゲンを利用するのだが、「ブドウ糖は脳にとって唯一のエネルギー源」という話はデタラメだ。われわれの脳みそは脂肪(正確には、脂肪からつくられるケトン体)を使える。

体脂肪がガソリンなら、グリコーゲンはさしずめニトログリセリンといったところなのだ。

photo credit: aldenchadwick via photopin cc

イラスト内テキスト/すい臓の働きは、①食べものを消化する消化液(すい液)を出す。②細胞がブドウ糖を利用したり、たくわえたりするのを手助けするホルモン(インスリンなど)を出し、血糖値をコントロールする。このホルモン分泌をつかさどるランゲルハンス島は、すい臓の内部に島状に点在し、内分泌をおこなう細胞群。血糖値をさげるインスリン、血糖値をあげるグルカゴン、この2つの分泌を抑える働きをするソマトスタチンなどを分泌している。発見者がランゲルハンスさんということから、その名がついた。すい島ともいう。

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