ぬか漬けの作り方/材料・容器・捨て漬けから本漬けまで

ぬか漬けの作り方

昔はどこの家にもぬか漬け桶がたいていあったものです。わたしの祖母なども毎日、土間に置いたぬか床に片腕を根元までつっこんでかきまわしていました。よく漬かったぬか漬けを噛みしめると、やさしさ、ぬくもりといったものがたちのぼってくるような気配があり、ほっこりした気分になったものです。数年前に亡くなりましたが、品のある、温和で繊細な人でした。

妻の実家は兼業農家で、8反(たん)ほどの田んぼを管理しています。代々嫁が受け継いできたぬか床がいまでも当たり前のようにあって、飯時になると夏はきゅうり、冬は白菜の漬け物が大皿にてんこ盛りになります。その味をひとことで評するならワイルド。荒々しく頑固な義母の性格をよくあらわしています。

関係あるまい、という人もいるかもしれません。が、さにあらん。ぬか床に棲む微生物はことのほか繊細。気むずかしい生きものです。うまい漬け物を作ってもらおうというなら、日ごろから彼らのささやき声に耳を澄ませ、あたかも乳飲み子の機嫌をとるように面倒をみてやるのが正道です。それを怠れば、雑味の強い、しょっぱいばかりの漬け物となり果てるのは必定。たかが漬け物されど漬け物——漬け物は、それを漬ける人間の性格や心理まで如実にあらわすものなのです。

とまあ、人の漬け物を食べるときなど、まるでぬか漬け講評家のように立派な口をきく私ではありますが、実際やってみるとなかなか思うようにはいきません。年季が足りないのだから仕方なかろう、と言い訳してみても、舌打ちがやまない。講釈と実地は両立しがたい一例です。

天国の婆ちゃんのような立派なぬか漬け職人になるべく、日々学び経験したことを忘れぬよう書きとめておこうというのがこの記事の出発点。自分自身のための備忘メモでしたが、自分のようなぬか漬け初学者の方の知見を広げるお役に立てば、これほどうれしいことはない。

ここからは、ぬか漬けを始めるための全工程を、初心者の方でも迷わないよう一つひとつ丁寧に解説します。

STEP 1 容器を選ぶ

全行程などとオーバーなことを言いましたが、何も難しいことはありません。

おおざっぱに言うと、水で練ったぬかを密封容器に入れ、クズ野菜を何度か漬けるだけ。市販の熟成済みのぬか床を使えば、今日からもうぬか漬けが味わえます。

ただし容器選びには、絶対に外せない条件が二つあります。

  • 口が広いこと——毎日かきまぜるものだから、手をつっこみやすいものを選ぼう。
  • 密閉できること——蓋がないと、カビや虫、雑菌が繁殖しやすい。においも気になる。

サイズの目安

家族の人数容器のサイズ目安
1〜3人3リットル程度
4〜6人6リットル程度
ぬか侍
ぬか侍

💡 ぬか侍のひとこと

大は小を兼ねる。容器が小さいと野菜を漬けにくいし、かきまぜにくい。のちのちぬか床を増量したくなっても後の祭りである。三人家族のわが家でも6リットルを常用しているくらいだ。迷ったら大きいほうを選ぶといい。材質はなんでもいい。タッパーでもカメでも琺瑯(ほうろう)でも。蓋で密閉できればよい。

いろんなサイズの容器

プラスチック容器 vs ホーロー容器

種類特徴
🧴 プラスチック容器軽くて安価。冷蔵庫に収まりやすい。700〜1,400円程度で入手できる。
🫙 ホーロー容器質感と光沢感が美しく、ぬか漬け愛好家に人気。野田琺瑯「ぬか漬け美人」(3.2L・2,500円前後)が定番。毎日使うものだから、納得のいく一品を選びたい。

文房具や時計などのような、毎日使用し体に直接触れるものは質の高いものにする。そうすることで、人は本物の満足感にひたれるといいます。

ぬか床の容器も同じかもしれませんね。

毎日使うものだから、値段だけにとらわれず、納得のいくひと品を選んでください。

⚠️ 水取器(みずとりき)はいらない

水取器のついた容器も市販されていますが、ぬか床に染みだしてきた水は抜く必要がありません。栄養がたっぷり溶けこんでいるから。どうしても水分を取り除きたい場合は、ぬか床の中央に穴を掘って布巾を差しこむだけでOK。

STEP 2 材料をそろえる

ぬか床づくりに必要な材料は、大きく「必須材料」と「うまみ増進材料」の二種類に分けられます。

ぬか床の材料

まず最低限必要なのは、米ぬかと水と塩、それと昆布、唐辛子です。

必須材料(ぬか床4kg分)

材料分量備考
米ぬか2kg生ぬかが基本。炒りぬかは足しぬか用に向く
2L(2kg)昆布のだし汁を使うと最初から風味豊かに
200g(ぬかの10%)精製塩でなく粗塩(自然塩)を使うこと
昆布15×10cm を2本ほどうまみのベース。だしをとった昆布でも可
赤唐辛子5本防腐・虫除け効果。ひと月に1回補充を

📌 この分量でできること

きゅうり3本と人参1本ほどなら余裕で漬けられます。3〜4人が毎日たらふく楽しめる量。6リットルの容器にもぴったり。朝夕、数切れの漬け物を箸休め程度に食すだけでいい、というなら、半分量(ぬか1kg)から始めるのも可。

うまみ増進材料(お好みで)

以下の材料は各家庭のぬか床の味の決め手になるもの。なにを使うか、あるいはどのくらい入れるかで、漬け物の味ががらりと変わってきます。わが家も日々、試行錯誤しています。

最初から入れてもいいし、あとから少しずつ足してもOK。

材料効果・特徴
かつお節香り豊かに。下町の漬け物が上品な味わいに変わる
煮干し(いりこ)イノシン酸が昆布のグルタミン酸と相乗効果を発揮
干ししいたけ複数のうまみ成分で複雑かつ奥深い味わいに
実山椒香りがぐんとよくなる。防腐効果も見込める高級食材
からし粉防腐作用あり。酸味を抑えたいときにも使う
ゆず・みかんの皮風味と色づけに。よく乾燥させてから投入を
ぬか侍
ぬか侍

💡 ぬか侍のひとこと

風味づけと殺菌力を期待して、にんにくや生姜を入れる人もいれば、乳酸菌の餌として魚のあらを入れる知人もいる。ビールやビール酵母を入れると、酵母の働きで、ぬか床が元気になるし、ヨーグルトにも同じことがいえる。ヨーグルトの乳酸菌が、ぬか床を活性化させてくれるのだ。思うに、ぬか床とは正解のない世界。味の箱庭だ。自由に冒険していいのである。

米ぬかの選び方と入手方法

米ぬかには生のものと炒ったものがあります。ぬか床を新調する際は生ぬかが基本。発酵しやすく栄養分も豊富。ただし酸化しやすいので、精米後3日以内の新鮮なものを選びたいところ。

ただ都会では新鮮な生ぬかがなかなか手に入りません。そんな場合は、熟成ずみの市販ぬか床を使う手があります。水を加えるだけですぐ使えて、捨て漬け不要。冬場にぬか床を始めるならとくにおすすめです。

生ぬか


発酵しやすく、栄養分も炒りぬかより豊富。新鮮なものは風味抜群。酸化しやすいので、精米後3日以内のものを入手したい。

炒りぬか


火を通してあり、芳ばしい香りがする。雑菌も繁殖しにくく、酸化しづらい。長期保存に向く。発酵しづらいのが難点。足しぬかに。

💡 塩は粗塩(自然塩)を使おう

精製塩(食塩)はミネラル分が削ぎ落とされているため、漬け物がとんがった味になりがち。粗塩(自然塩)を使うと、マイルドで丸みのある仕上がりになります。

STEP 3 ぬか床を仕込む

材料がそろったら、いよいよぬか床づくり。難しくしありません。ひとことで言えば「よくこねる」だけ。

ぬか床を混ぜる
  1. ぬか、水(ぬかと同量)、塩(ぬかの10%)をボールへ入れる
  2. 耳たぶくらいのやわらかさになるまで、全体をしっかり混ぜあわせる
  3. 昆布と赤唐辛子を加えて軽くまぜる(かつお節や煮干しなどはお好みで)
  4. 容器に移し、上から押して叩いて地ならしする
ぬか侍
ぬか侍

💡 ぬか侍のひとこと

昆布はぬか床の味のベースをつくる。新床をつくる際、水の代わりに昆布のだし汁を使うご家庭もある。鰹節を足してもいい。最初からうまみ成分(昆布のグルタミン酸)をぬか床に浸透させてやろうという魂胆である。面倒でなければやるだけの値打ちあり。早い段階から、漬け物が風味豊かにしあがる。だしをとったあとの昆布やかつお節はこまかく刻んでぬか床へ入れよう。

📌 かたさの目安

「耳たぶ」または「お味噌くらい」が正解。野菜を漬けているうちにどんどん水っぽくなってくるので、最初はやや硬めを意識するといいでしょう。

STEP 4 捨て漬けで熟成させる

できたてほやほやのぬか床では、まだ漬け物はつくれません。乳酸菌や酵母、酪酸菌などの微生物を増やし、ぬか床を発酵させる準備期間が必要です。これを「捨て漬け」と呼びます。

市販の熟成ぬかや、よそ様から分けてもらったぬか床を使う場合、捨て漬けは不要です。

捨て漬け

捨て漬けの手順

  1. クズ野菜をぬか床に入れ、1日2回(朝晩)かきまぜる
  2. 3〜4日たったらクズ野菜を引きあげ、新しいものと交換する(このとき野菜についたぬかはていねいにこそぎとってぬか床へ戻す。野菜の汁もぎゅっと絞って戻すこと)
  3. これを2回繰り返したら完成。期間の目安は約1週間

捨て漬けに向く野菜・向かない野菜

✅ 向く野菜


キャベツの外葉や切れ端、大根の頭・しっぽ・皮、人参の皮など。小松菜、青梗菜、ピーマンなど冷蔵庫にある野菜くずならたいてい使えます

向かない野菜


トマト、タマネギはそもそもぬか漬けに不向き。茄子・春菊・ニラ・じゃがいも・里芋・ごぼうはあくが強いため捨て漬けには使わないのが吉

⚠️ 冬場はぬか床づくりに向かない

ぬか床の発酵に適した温度は20〜25度。30度を超えると、異常発酵する恐れもあります。猛暑日は冷蔵庫に入れるか、クーラーの効いた部屋に置くかするといいでしょう。反対に冬場は乳酸菌がなかなか増えません。寒い時期に始めるなら、熟成ずみの市販ぬか床を使うのが得策です。

💡 完全熟成までは半年かかる

捨て漬けを終えて本漬けができるようになっても、ぬか床が本物の乳酸菌密度(1gあたり10億個)に達するまでには半年ほどかかります。それまで根気よく手入れしながら育てていく気構えが大切です。

STEP 5 本漬けに入る

捨て漬けが終わったら、いよいよ本番。最初はオーソドックスなきゅうりや大根から始めるのがおすすめ。漬かりが早く、結果がわかりやすいですよ。

きゅうりのぬか漬け
  1. ぬか床を掘り、野菜をつっこむ
  2. 野菜を埋めたら、上からぬかをかぶせる(外から見えないように)
  3. ぬか床を上から押したり叩いたりして、空気を抜き、表面をならす
  4. 容器の蓋をして、あとは待つ

📌 本漬けのポイント

  • 野菜同士がくっつかないようにすること
  • 野菜をぬか床のなかに完全に沈めること
  • ぬか床の空気をしっかり抜いてやること(乳酸菌は空気がない環境でより活発になる)
  • 最後に表面を平らにすること(酸化を防ぐため)

漬け時間の目安

季節やわらかい野菜(きゅうりなど)かたい野菜(大根・人参など)
6時間〜12時間〜
12時間〜24時間〜

「野菜をぬか床へ入れる時刻 = 食事開始時刻 ー 漬け時間」——これがぬか漬けの定理です。逆算して仕込む習慣をつけると、いつでも食べごろのぬか漬けが楽しめます。

ぬか漬けは、旬の食材をほぼナマでいただくものですから、野菜は新鮮であることが大前提。新鮮な野菜なら、たいていのものをぬか床は受け入れてくれます。

STEP 6 ぬか漬けを取り出す

ぬか漬けが最もおいしいのは、ぬか床からひきあげてすぐ。取り出したら水道水でさっと洗って、切って、即刻「いただきます」——これが基本。

野菜たちのぬか漬け
  1. 野菜についているぬかをしごいて容器へ戻す
  2. さっと水洗い(ぬかの栄養分を落としすぎないよう、洗いすぎない)
  3. 食べやすいサイズにカット
  4. お皿に盛りつける

💡 ぬか漬けの定理

「野菜をぬか床へ入れる時刻 = 食事開始時刻 ー 漬け時間」。逆算して仕込む習慣をつけると、いつでも食べごろのぬか漬けが楽しめます。

STEP 7 毎日の手入れ

ぬか床は生きものです。かいがいしく世話を焼くと、深い愛着が湧いてくるのです。

  • なるたけ毎日、野菜を漬ける——野菜が微生物の餌となり、ぬか床の発酵が進む
  • 1日1回はかきまぜる——乳酸菌・酵母・酪酸菌のバランスを保つために欠かせない
  • 香りと味を定期的にチェックする——ぬか床を少量そのまま食べてみて、わが家の基準の味を覚えておこう

📌 旅行や留守のときは

  • 3〜4日程度の外出——冷蔵庫に入れておけばOK。ぬか床の活動が緩やかになる
  • 1〜2週間以上の長期不在——冷凍庫で「冬眠」させる。帰宅後に自然解凍するだけで復活する

面倒に思えるかもしれませんが、リアルなRPGのようでとても楽しいものです。毎日のかきまぜがいつの間にか習慣になり、ぬか床がどんどん育っていく過程は、なかなかどうして飽きがこない。

うまい漬け物が漬けられるようになってきたら、ぬか床をひとくちそのまま食べてみてください。そのときの味と香りを胸に刻む——それが、わが家のぬか床の風味の基準になるのです。

ぬか侍
ぬか侍

💡 ぬか侍のひとこと

昼間のしくじりがどうにも気になって眠れぬ夜、ひとり寝床から這いだして、暗い台所でぬか床をかきまぜる。ひんやりとした感触が心地よい。ひとくち囓れば、余韻嫋々(じょうじょう)たる味わいを楽しませてくれる。最近、わたしはぬか床に励まされてばかりいる。

まとめ

ぬか漬けのはじめ方をおさらいします。

  • 材料をそろえて(米ぬか・塩・水・昆布・唐辛子)、よくこねてぬか床を作る
  • 容器は口が広く・密閉できる6リットルがおすすめ
  • 捨て漬けを約1週間おこない、ぬか床を発酵・熟成させる
  • 本漬けはきゅうりや大根から始めると失敗しにくい
  • 毎日かき混ぜて、ぬか床を育てていくのが長続きのコツ

ぬか床のぬかは栄養の宝庫です。ビタミンやミネラルたっぷり。さらに微生物たちによる発酵の力が、野菜がもつ本来の滋味をめいっぱい引きだしてくれます。ぬか漬けのある暮らしは、なにやら心の拠りどころができたようで、思っていた以上に素敵なものなのです。

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