「腸活」という言葉、もう耳タコですね。
でも正直なところ、「腸活ってヨーグルト食べればいいんでしょ?」くらいに思っていませんか。わたしも昔はそうでした。毎朝せっせと市販のヨーグルトを食べながら、「これで腸活バッチリ!」と自己満足していた時期があります。
ところが闘病生活をきっかけに腸について猛勉強してわかったのは、腸の世界はもっとずっと奥深くて、おもしろいということ。腸内には約1000種・100兆個もの菌が棲んでいて、わたしたちの免疫、メンタル、肌、体重、さらには子どもの発達にまで深く関わっている。
今日はそんな腸内細菌の中でも「乳酸菌」にスポットを当てて、種類ごとの特徴と、日々の食卓でどう取り入れるかをお伝えします。難しい話は抜きで、台所に立つときにふと思い出せる知識として読んでもらえたら嬉しいです。
乳酸菌って、ひとくくりにするには多すぎる
「乳酸菌」と一口に言っても、実はその種類は数百にのぼります。人間に「日本人」も「フランス人」も「ケニア人」もいるように、乳酸菌にも得意なことがまるで違う個性豊かなメンバーが揃っています。
スーパーで見かける乳酸菌飲料やヨーグルトのパッケージに書いてある「○○菌」という表示、人間でいえばあれがそれぞれの”人種名”です。なんとなく流していた名前ですが、実は菌種によって得意分野がぜんぜん違う。知って損はありません。
日本人の食卓に馴染みの深い代表的な乳酸菌を、ざっくりご紹介していきましょう。
① ラクティス菌|美肌と老化防止のスペシャリスト
主な棲み家:カスピ海ヨーグルト、チーズ、漬け物
ラクトバチルス・ラクティス(ラクティス菌)は、カスピ海ヨーグルトでおなじみの菌です。特に「クレモリスFC株」という種類が有名で、日本の研究機関でも多く研究されています。
30〜60代の日本人女性を対象にした臨床試験では、ラクティス菌を8週間摂り続けることで肌の水分保持力と弾力が有意に改善したという結果が出ています。また、老化による骨密度の低下を抑える可能性や、加齢性難聴を遅らせる働きを示した動物実験のデータもあります。
「なんとなくカスピ海ヨーグルトが好き」という方、勘がいいかもしれません。
はやま
わたし自身、カスピ海ヨーグルトに一時期どっぷりハマりまして、毎日1パック食べていたこともあります。でも市販品はそこそこのお値段なので、そのうち自分で培養しはじめました。一度種菌さえ手に入れれば、牛乳さえあれば永遠に増やせる。あれは発酵食品の入口として最高だったと思っています。
② カゼイ菌|免疫と腸炎に強い”縁の下の力持ち”
主な棲み家:チーズ、漬け物、ワイン、ヤクルトなどの乳酸菌飲料
ラクトバチルス・カゼイ(カゼイ菌)は、免疫力を高めたり、腸の炎症を抑えたりすることで知られる乳酸菌です。ヤクルトに含まれる「シロタ株」もカゼイ菌の一種。知らず知らずのうちにお世話になっている方も多いはずです。
研究によると、カゼイ菌はNK(ナチュラルキラー)細胞やマクロファージを活性化させて免疫を底上げするほか、子どもの感染症の発生率を下げたり、中年会社員の上気道感染(要するに風邪)の罹患期間を短くしたりといった効果が報告されています。
また抗酸化作用、抗ストレス作用、抗アレルギー作用、さらには虫歯菌を抑える働きまで持つという、なかなかの万能選手です。
はやま
「免疫力を上げたい」という相談を受けたとき、わたしがまず聞くのは「発酵食品を毎日食べていますか?」という質問です。サプリより先に、まず食卓から。それが基本だと思っています。
③ ガセリ菌|ダイエットとアレルギーの強い味方
主な棲み家:母乳、ヨーグルト(特に「ガセリ菌SP株」入りの商品)
ラクトバチルス・ガセリ(ガセリ菌)は、もともと人間の腸や母乳に存在する菌です。近年、内臓脂肪を減らす可能性があることから「ダイエット乳酸菌」として注目を浴びています。
雪印メグミルクとの共同研究などで、内臓脂肪面積の有意な減少が確認されており、テレビCMでも見かけるようになりましたね。ただし、摂取をやめると効果が薄れるという報告もあるため、継続が大事。「痩せるヨーグルト」という過度な期待よりも、「腸の健康維持と体重管理のサポート」くらいの気持ちで取り入れるのがちょうどいいと思います。
そのほか、アレルギー症状の軽減、ピロリ菌の抑制、抗疲労作用なども研究で示されています。
④ LGG乳酸菌(ラムノサス菌)|子どものアレルギーケアに
主な棲み家:一部のヨーグルト、サプリメント
ラクトバチルス・ラムノサスGG(通称LGG)は、世界で最も研究されている乳酸菌のひとつ。胃酸や胆汁酸に強く、腸まで届きやすい性質があるため、プロバイオティクスとして広く使われています。
特に注目したいのが子どものアレルギーへの影響です。妊娠中や授乳中の母親がLGGを摂取すると、生まれた子どものアトピー性皮膚炎のリスクが下がるという研究が複数報告されています。絶対ではありませんが、妊娠中のお母さんにとっては知っておいて損のない情報だと思います。
また子どもの急性下痢や胃腸炎の罹患期間を短縮させる効果も複数の臨床試験で確認されています。
はやま
娘が小さい頃、胃腸炎で苦しんでいたことがありました。ぐったりした顔を見ながら「腸内環境を日頃から整えてあげることが、一番の備えだな」と痛感したのを覚えています。治ってからぬか漬けを少しずつ食べさせるようにしました。
⑤ アシドフィルス菌|腸内環境を整える定番選手
主な棲み家:ヨーグルト、発酵乳、サプリメント
ラクトバチルス・アシドフィルスは、ヨーグルトや乳酸菌飲料に古くから使われてきた、腸活の”定番メンバー”。腸内のpHを下げて悪玉菌が増えにくい環境をつくることを得意としています。
下痢や便秘の改善、コレステロール低下、免疫機能のサポートなど、研究で確認されている働きは多岐にわたります。過敏性腸症候群(IBS)の症状改善にも効果があるという報告も出ています。
乳糖不耐症(牛乳でお腹を壊す体質)の方にとっては、アシドフィルス菌が乳糖の消化を助けてくれるという働きも見逃せません。
⑥ ビフィズス菌|大腸に住む、腸活の主役
主な棲み家:ヨーグルト、母乳、赤ちゃんの腸内
厳密には乳酸菌と別のグループですが、プロバイオティクスを語るうえで外せないのがビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)。大腸に主に棲んでいて、腸内細菌叢のバランスを保つ上でとても重要な役割を担っています。
赤ちゃんの腸には特にビフィズス菌が多く、母乳に含まれるオリゴ糖はこのビフィズス菌を選択的に増やす役割があることがわかっています。「母乳育児が腸にいい」と言われる理由のひとつがここにあります。
加齢とともにビフィズス菌は減っていきます。70代になると乳幼児期の10分の1以下まで減るとも言われます。だからこそ、大人こそ意識的に補う必要があるのです。
ところで、「幸せホルモン」として知られるセロトニンの約90%は、脳ではなく腸で作られていることをご存じでしょうか。腸内細菌はその産生に深く関わっており、腸内環境が乱れるとメンタルにも影響が出やすくなります。「なんとなく気分が落ち込む」「イライラしやすい」——そんなときに腸を疑ってみることも、あながち見当違いではないのです。
はやま
ヨガや瞑想を続けるなかで、「思考は自分でコントロールできない」と気づきました。深い瞑想に入ると、思考の種はいつも勝手にふっと湧いてくる。考えたいから考えているわけじゃない。その思考の色は、感情の状態によって変わります。ネガティブなときは思考もネガティブになる。感情を作っているのが腸内細菌だとするなら、思考もまた腸内細菌に支配されているとも言えます。わたしが腸内細菌を「人間というロボットのコクピットに座っている操縦士」だと思っている理由のひとつです。
結局、何をどう食べればいいの?
ここまで読んで「それぞれ菌が違うなら、全部摂らないといけないの?」と思った方、ご安心ください。
一番シンプルで確かな答えは、「いろんな発酵食品を毎日少しずつ食べる」です。
日本の伝統的な一汁三菜の食卓には、ぬか漬け、みそ汁、納豆、漬け物と、さまざまな発酵食品が自然と並んでいました。先人たちは科学的な説明など知らなくても、経験の積み重ねで「これが体にいい」とわかっていたのでしょう。理にかなっています。
| 発酵食品 | 主な乳酸菌・菌種 | 取り入れ方のコツ |
|---|
| ぬか漬け | ラクティス菌、植物性乳酸菌 | 自家製なら生きた菌が豊富。市販品は加熱処理済みも多いので要確認 |
| カスピ海ヨーグルト | クレモリスFC株(ラクティス菌) | 自家培養がコスパ最高。とろっとした独特の食感 |
| 普通のヨーグルト | アシドフィルス菌、ビフィズス菌など | 砂糖不使用のものを選ぶのがポイント |
| 納豆 | 納豆菌(乳酸菌ではないが腸活に有効) | 毎日1パック。加熱せずそのまま食べるのが◎ |
| みそ | 麹菌、乳酸菌 | 加熱しすぎると菌が死ぬ。汁に溶くのは火を止めてから |
| ザワークラウト | 植物性乳酸菌 | 市販品より手作りが断然おすすめ。塩とキャベツだけでできる |
ひとつだけ、お願いがあります
乳酸菌の知識をお伝えしてきましたが、最後に大事なことを。
腸活は「完璧にやらなければ意味がない」ものではありません。むしろ、「毎日ちょっとだけ」の方が長続きするし、実際に体は変わっていきます。
毎朝ヨーグルトをひとさじ。夕食にぬか漬けをひと切れ。みそ汁に手作りのお味噌を。そんな小さな積み重ねが、3か月後、半年後の腸内環境を大きく変えていきます。
「きちんとやらなきゃ」より「楽しんでやろう」。それが腸にとっても、あなたにとっても、一番の腸活だとわたしは思っています。
はやま
最近、母にわが家のぬか床を送りました。ガンがわかって、何かできることをと考えたとき、真っ先に思い浮かんだのがそれでした。薬でも高価なサプリでもなく、ぬか床。「毎日かき混ぜてね」と添えて。腸を整えることが、体を整えることに直結していると信じているからです。
次の記事では、腸内細菌を元気にする「プレバイオティクス」(菌のエサとなる食品)についてお話しします。乳酸菌と合わせて知っておくと、腸活の効果がぐっと高まりますよ。
【参考文献】
■ ラクティス菌(Lactococcus lactis)
「Oral intake of heat-killed cells of Lactococcus lactis strain H61 promotes skin health in women」(Journal of Dairy Science 2014)Kimoto-Nira H, et al.
「Effects of ingesting milk fermented by Lactococcus lactis H61 on skin health in young women: a randomized double-blind study」(Journal of Dairy Science 2014)Kimoto-Nira H, et al.
「Anti-ageing effect of a lactococcal strain: analysis using senescence-accelerated mice」(British Journal of Nutrition 2007)Kimoto-Nira H, et al.
「Dietary intake of heat-killed Lactococcus lactis H61 delays age-related hearing loss in C57BL/6J mice」(Scientific Reports 2016)Kimoto-Nira H, et al.
「Immunomodulatory effect of Lactococcus lactis JCM5805 on human plasmacytoid dendritic cells」(Cellular Immunology 2014)Hosoya T, et al.
「Oral administration of milk fermented with Lactococcus lactis subsp. cremoris FC protects mice against influenza virus infection」(Letters in Applied Microbiology 2012)Kawase M, et al.
「Lactococcus lactis ssp. lactis inhibits the proliferation of SNU-1 human stomach cancer cells through induction of G0/G1 cell cycle arrest and apoptosis via p53 and p21 expression」(Journal of Dairy Science 2009)Seo KH, et al.
■ カゼイ菌(Lactobacillus casei)
「Immunomodulatory effects of a probiotic drink containing Lactobacillus casei Shirota in healthy older volunteers」(Journal of Nutritional Science 2012)Dong H, et al.
「Effects of Lactobacillus casei supplementation on disease activity and inflammatory cytokines in rheumatoid arthritis patients: a randomized double-blind clinical trial」(International Journal of Rheumatic Diseases 2014)Zamani B, et al.
「Lactobacillus casei downregulates commensals’ inflammatory signals in Crohn’s disease mucosa」(Journal of Crohn’s and Colitis 2009)Llopis M, et al.
「Lactobacillus casei HY7213 ameliorates cyclophosphamide-induced immunosuppression in mice by activating NK, cytotoxic T cells and macrophages」(Immunological Investigations 2013)Kim WG, et al.
■ ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)
「Effect of Lactobacillus gasseri SBT2055 in fermented milk on abdominal adiposity in adults in a randomised controlled trial」(British Journal of Nutrition 2013)Kadooka Y, et al.
「Regulation of abdominal adiposity by probiotics (Lactobacillus gasseri SBT2055) in adults with obese tendencies in a randomized controlled trial」(European Journal of Clinical Nutrition 2010)Kadooka Y, et al.
「Effect of Lactobacillus gasseri BNR17 on Overweight and Obese Adults: A Randomized, Double-Blind Clinical Trial」(Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition 2013)Kim J, et al.
「Lactobacillus gasseri SBT2055 inhibits adipose tissue inflammation and intestinal permeability in mice fed a high-fat diet」(Scientific Reports 2016)Tamaki N, et al.
■ ラムノサス菌・LGG(Lactobacillus rhamnosus)
「Lactobacillus rhamnosus GG: an updated review on health effects and clinical applications」(Current Pharmaceutical Design 2014)Doron S, Snydman DR.
「Lactobacillus rhamnosus GG in the primary prevention of eczema in children」(Journal of Allergy and Clinical Immunology 2014)Wickens K, et al.
「Lactobacillus rhamnosus GG: a viable option for treating acute gastroenteritis in children」(Expert Review of Anti-Infective Therapy 2013)Guandalini S.
「Lactobacillus rhamnosus (LGG) reduces antibiotic-associated diarrhea in children」(Pediatrics 2013)Szajewska H, et al.
■ アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)
「Lactobacillus acidophilus: a probiotic with extensive health benefits」(Beneficial Microbes 2014)Khalesi S, et al.
「Influence of Lactobacillus acidophilus on gut microbiota in healthy adults」(Beneficial Microbes 2014)Mater DD, et al.
「Effects of Lactobacillus acidophilus supplementation on metabolic parameters and bowel function in elderly subjects」(Nutrition 2013)Barreto FM, et al.
「Lactobacillus acidophilus influences the composition of the intestinal microbiome in rats」(Journal of Nutrition 2010)de Vries MC, et al.
■ ビフィズス菌(Bifidobacterium)
「The role of bifidobacteria in the immune system: gut microbiota and host health」(Immunology Letters 2010)Turroni F, et al.
「Bifidobacterium infantis in breast milk and the infant gut microbiome」(Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition 2008)Gueimonde M, et al.
「Changes in bifidobacterial populations in feces of elderly subjects」(Anaerobe 2005)Woodmansey EJ, et al.